大阪地方裁判所 平成10年(ワ)9196号 判決 1999年3月15日
原告
大西佐代子
ほか三名
被告
加賀谷昌
ほか一名
主文
一(一) 被告加賀谷昌は、原告大西佐代子に対し、金二八三七万三四七一円及び内金二五八七万三四七一円に対する平成八年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告加賀谷昌は、原告大西由喜、原告大西安紀、原告大西裕らそれぞれに対し、金九四二万四四九〇円及び内金八六二万四四九〇円に対する平成八年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二(一) 被告加賀谷輝夫は、原告大西佐代子に対し、金二七八五万二一八六円及び内金二五三五万二一八六円に対する平成八年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告加賀谷輝夫は、原告大西由喜、原告大西安紀、原告大西裕らそれぞれに対し、金九二五万〇七二八円及び内金八四五万〇七二八円に対する平成八年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その二を原告らの負担とし、その八を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは連帯して、原告大西佐代子に対し、金三三〇〇万〇〇〇〇円及び内金三〇〇〇万〇〇〇〇円に対する平成八年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは連帯して、原告大西由喜、原告大西安紀、原告大西裕らそれぞれに対し、金一一〇〇万〇〇〇〇円及び内金一〇〇〇万〇〇〇〇円に対する平成八年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 訴訟の対象
(一) 被告加賀谷昌(以下、被告昌という。)民法七〇九条(交通事故、死亡事案)
(二) 被告加賀谷輝夫 自賠法三条
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
(一) 交通事故の発生(甲一)
<1> 平成八年二月一〇日午前一時一〇分ころ(雪)
<2> 兵庫県多紀郡丹南町杉近畿自動車道敦賀線(通称舞鶴自動車道)下り二一・五キロポスト
<3> 被告昌は普通乗用車(大阪79や9947)(以下、被告車両という。)を運転中
<4> 亡大西均(昭和二二年一一月一六日生まれ、当時四八歳)(以下、亡均という。)は普通乗用車(神戸78む6245)(以下、原告車両という。)を運転中
<5> 原告車両が被告車両に追突した。
(二) 責任(争いがない。)
被告昌は、舞鶴自動車道下り線を走行中、降雪のため被告車両がスリップを始めたことから、丹南第二トンネル内の走行車線(第一車線)に被告車両を停止させ、チェーンの装着を始めた。このとき、三角板などを置かなかった。
亡大西は、丹南第二トンネル内に入り、走行車線を走行していたが、停車していた被告車両に追突した。
したがって、被告昌は、事前にチェーンを装着せず、高速道路のトンネル内の走行車線上に、停止表示器材を置かないで、被告車両を停止させ、チェーン装着作業を始めたが、後方から進行してくる車両に対する安全を確保しなかった過失がある。
また、被告加賀谷輝夫は、被告車両の所有者である。
(三) 死亡(争いがない。)
亡均は、本件事故により、即死した。
(四) 相続(甲六)
亡均の、原告大西佐代子は妻であり、そのほかの原告らは子である。損害賠償請求権を、原告大西佐代子は二分の一、そのほかの原告らは各六分の一を相続した。
三 原告ら主張の損害
別紙1のとおり
四 争点と被告らの主張
(一) 争点
過失相殺
(二) 被告らの主張
被告昌は、丹南第二トンネルの手前では、暗くてチェーンを装着することができなかった。トンネル内は、明るく、見通しもよく、数台の車がチェーンの装着の作業をしていた。そこで、ハザードランプを点灯させて、チェーンの装着を始めた。
他方、亡均は、最高速度時速五〇キロメートル(降雪のため規制中)を大幅に越えて走行し、居眠りかそれに近い前方不注視により、回避措置をとらないで、被告車両に追突した。
したがって、亡均には九〇パーセントを超える過失がある。
第三判断
一 証拠(甲三の一ないし四、一二の一と二、被告昌の供述)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場の状況は、次のとおりである。
本件事故現場は、近畿自動車道敦賀線(通称舞鶴自動車道)下り二一・五キロポスト先丹南第二トンネル内である。中国縦貫自動車道と合流する吉川ジャンクションから北方約二一・五キロメートル、丹南第二トンネル(全長五〇七メートル)出口から手前(南方)約七七メートルの地点である。
現場付近の道路は、上り二車線と下り二車線である。一車線の幅員は三・六メートルであり、路側帯は二・四メートルである。上り線と下り線は中央分離帯で分離され、路面はアスファルト舖装されている。丹南第二トンネル内は、一車線の幅員は三・六メートルであり、路側帯は〇・五メートルである。
現場付近の道路は、平たんで、丹南第二トンネル内は、南から北に向かって半径二〇〇〇メートルの緩やかな左カーブになっている。
道路は、最高速度が時速八〇キロメートルと規制されているが、本件事故当時は、降雪のため、時速五〇キロメートルに規制されていた。
本件事故現場は、照明設備が設置され、視認性は良好であった。
(二) 舞鶴自動車道下り線の丹南第二トンネル直近のタイヤチェーン装着場は、吉川ジャンクション側は未設置で、舞鶴側は西紀サービスエリアであり、約三・九キロメートルある。
また、本件事故発生の前、日本道路公団から凍結防止薬液散布業務を請け負っている会社の作業車が、丹南第二トンネル下り線を通過するとき、トンネル内出口付近の走行車線上でタイヤチェーンを装着している車両四ないし五台を見つけたので、作業車に同乗していた者が、こんなところでタイヤチェーンを付けないようにと、口頭で注意した。ただし、注意された車両が、本件事故に関係した車両かどうかはわからない。
(三) 被告昌は、スキーに行くため、友人を同乗させて被告車両を運転し、中国縦貫自動車道から、吉川ジャンクションを経由して、舞鶴自動車道下り線に入った。
舞鶴自動車道に入ってから、サービスエリアで給油したが、そのときは雪が降っていなかった。サービスエリアを出発してから一〇ないし二〇分ほど走行したころ、雪が降り始めた。はじめは、ぱらばらと降っていたが、北に進むにつれてうっすらと路面に積もりだし、本件事故現場の丹南第二トンネルの手前では、被告車両がスリップする状態であった。丹南第二トンネル内を走行していたとき、車両が走行車線(第一車線)に停止し、チェーンを装着していたので、走行車線に被告車両を停止させた。被告車両の前方に二台、後方に二台くらい停止していた。
被告車両の左側のタイヤのチェーンを装着するため、被告車両を走行車線のほぼ中央付近に止めた。ハザードランプを点滅させたが、三角板はおかなかった。
はじめに、左後輪にチェーンを装着し、次に右後輪にチェーンを装着する作業を始めた。このときには、後方に停車していた車両は、すでにいなくなっていた。前方には、一台停止していた。その後、走行車線を走行してきた原告車両が被告車両に追突した。
(四) 亡均は、仕事を終え、丹南町にある自宅に帰宅するため、舞鶴自動車道下り線を走行していた。亡均は死亡しているので、正確な事実関係は明らかではないが、丹南第二トンネル出口から北方約一キロメートルの丹南篠山口インター出口から舞鶴自動車道を降りて、自宅に戻る予定であったと思われる。
なお、亡均が最高速度時速五〇キロメートルを大幅に越える速度で走行したこと、居眠りをしながら走行したことを認めるに足りる証拠はない。
二(一) これらの事実に基づき、過失割合を検討する。
(二) まず、被告昌は、事前にチェーンを装着せず、高速道路のトンネル内の走行車線上に、停止表示器材を置かないで、被告車両を停止させ、チェーン装着作業を始めたが、後方から進行してくる車両に対する安全を確保しなかった過失がある。
(三) 次に、亡均は、トンネル内は、ある程度、明るく、見通しもよかったのであるから、前をよく見ていれば、被告車両が停車していることに気がついたはずであり、前をよく見ていなかった過失があるといわざるを得ない。
(四) そして、これらの過失の大小を検討すると、前をよく見ていなかった亡均の過失も小さいとはいえない。
しかし、たとえ、トンネルの外では雪が降っていたとはいえ、高速道路のトンネル内の走行車線の中央付近に、チェーンを装着するため駐車車両があることを予想するのは難しいと思われる。(被告昌も、トンネル内でチェーンを装着しようとしていたというよりも、ほかの停車車両があったからチェーンの装着を始めたと窺える。)。しかも、三角板を置かないで、ハザードランプを点滅させているだけであれば、車間距離の判断は難しいし、停車しているのか、低速で走行しているのかの識別も難しいであろう。したがって、亡均が前をよく見ていなかったとしても、やむを得ない事情があったということができる。
他方、被告昌は、二月の深夜にスキーに行くため、北に向かって走行しており、しかも、途中雪が降り出してきたのであるから、進行先の路面が凍結していることは容易に予想できたはずである。したがって、雪が降り始めてからでも、被告車両がスリップを始め、チェーンの装着が必要になるまでの間にチェーンを装着することは十分可能であったはずである。(なお、被告昌は、トンネルの手前では、暗くてチェーンを装着することができなかった旨の供述をする。しかし、一般的に高速道路では照明灯が設置されている箇所も多いし、被告昌も、トンネルに入り、明るくなってすぐにチェーンの装着を始めたわけではないので、前記供述をそのまま採用することはできない。)
しかも、高速道路のトンネル内の走行車線上に、ハザードランプを点滅させるだけで車両を停車させることは、作業車が注意をした事実によるまでもなく、きわめて危険な行為であることはいうまでもない。
これらの事情を検討すると、高速道路のトンネル内の走行車線上に、三角板を置くなど後続車両に対する十分な安全措置を講じないで被告車両を停車させた被告昌の責任が大きいというべきである。
したがって、亡均と被告昌の過失割合は、二五対七五とすることが相当である。
三 損害
裁判所認定の損害は、別紙2のとおりである。
(裁判官 齋藤清文)
別紙1 原告ら主張の損害額
1 逸失利益 7782万5378円
(1) 60歳まで
<1> 事故前の年収 1039万0400円
<2> 生活費控除 30パーセント
<3> 12年(ホフマン係数9.215)
(2) 67歳まで
<1> 賃金センサス 395万5800円
<2> 生活費控除 30パーセント
<3> 7年(13.116-9.215=3.901)
2 死亡慰謝料 2800万0000円
3 葬儀費用 120万0000円
4 日本道路公団からの請求額 139万0094円
合計 1億0841万5472円
損益相殺(自賠責保険金) 2956万4663円
残金 7746万0715円
相続
(1) 原告大西佐代子 3873万0357円
(2) そのほかの原告ら 1291万0119円
請求額(内金請求)
(1) 原告大西佐代子 3000万0000円
(2) そのほかの原告ら 100万0000円
弁護士費用
(1) 原告大西佐代子 300万0000円
(2) そのほかの原告ら 100万0000円
総請求額
(1) 原告大西佐代子 3300万0000円
(2) そのほかの原告ら 1100万0000円
別紙2 裁判所認定の損害額
1 逸失利益 7782万5378円
(1) 60歳まで 6702万3275円
<1> 事故前の年収 1039万0400円(甲5)
<2> 生活費控除 30パーセント
<3> 12年(ホフマン係数9.215)
(2) 67歳まで 1080万2103円
<1> 賃金センサス 395万5800円
<2> 生活費控除 30パーセント
<3> 7年(13.116-9.215=3.901)
2 死亡慰謝料 2800万0000円
3 葬儀費用 120万0000円
4 日本道路公団からの請求額(甲9) 139万0094円
合計 1億0841万5472円
過失相殺後(被告ら75パーセント) 8131万1604円
損益相殺(自賠責保険金)(甲8) 2956万4663円
残金 5174万6941円
相続
(1) 原告大西佐代子 2587万3471円
(2) そのほかの原告ら 862万4490円
弁護士費用
(1) 原告大西佐代子 250万0000円
(2) そのほかの原告ら 80万0000円
認容額
(1) 原告大西佐代子 2837万3471円
(2) そのほかの原告ら 942万4490円
なお、被告加賀谷輝夫は自賠法3条の責任を負うから、物損については損害賠償義務がなく、同被告の損害額は別紙3のとおりである。
別紙3 裁判所認定の損害額(被告輝夫分)
1 逸失利益 7782万5378円
(1) 60歳まで 6702万3275円
<1> 事故前の年収 1039万0400円(甲5)
<2> 生活費控除 30パーセント
<3> 12年(ホフマン係数9.215)
(2) 67歳まで 1080万2103円
<1> 賃金センサス 395万5800円
<2> 生活費控除 30パーセント
<3> 7年(13.116-9.215=3.901)
2 死亡慰謝料 2800万0000円
3 葬儀費用 120万0000円
合計 1億0702万5378円
過失相殺後(被告ら75パーセント) 8026万9033円
損益相殺(自賠責保険金)(甲8) 2956万4663円
残金 5070万4370円
相続
(1) 原告大西佐代子 2535万2186円
(2) そのほかの原告ら 845万0728円
弁護士費用
(1) 原告大西佐代子 250万0000円
(2) そのほかの原告ら 80万0000円
認容額
(1) 原告大西佐代子 2785万2186円
(2) そのほかの原告ら 925万0728円